合同会社パブリブ代表 ハマザキカク
HP : http://publibjp.com/
Twitter : https://twitter.com/hamazakikaku
近年、音楽・サブカルチャー・世界史クラスタにおいて、話題の出版社が存在する。それが今回取り上げる合同会社パブリブだ。
特に、音楽方面においては、『デスメタルアフリカ』に始まり、『デスメタルインドネシア』『ブルータルデスメタルガイドブック』『デスコアガイドブック』『東欧ブラックメタルガイドブック』『ヒップホップ東欧』など、数多くのサブジャンル・地域に特化した名書籍がリリースされている。
今回TOPPA!!編集部は、これらの書籍をリリースするパブリブ代表ハマザキカク氏に対し、彼の生い立ちから出版業界に入るきっかけ、リリースする書籍の基準等、話を聞いた。
取材・文 / 宮久保 仁貴 編集 / 松江 佑太郎
-ハマザキさんの生い立ちから、現在に至るまでの経歴を教えて下さい。
ハマザキ : 生まれたのは日本ですが、物心がつく前に、親の転勤で海外を転々としていました。
それこそ、幼稚園の頃から大学時代まで、フィリピンやチュニジア、イギリス、フランス、モロッコ等々……世界の色んなところにいました。
音楽を聴き始めたきっかけはですね……、小学生後半~中学校初頭にチュニジアのアメリカンスクールで学生生活を過ごしていたんですよ。そこにいる学生達が聴いている音楽は勿論洋楽で、当時はMC HAMMERを中心にHIP HOPが大流行していました。自分もその流れに乗りまして、初めて買ったCDはMC HAMMERとVANILLA ICEでした。
それと同時に、1992~1993年辺りにMTVでSEPULTURAやNINE INCH NAILSなどの存在を知り、この手の音楽にドップリとハマる様になりました。そこから、高校はイギリスの日本人学校に通い、NAPALM DEATH、BRUTAL TRUTH、CANNIBAL CORPSEなどのグラインドコアやデスメタルをリアルタイムで聴いていました。EARACHEの全盛期です。
その後、大学進学で再び日本に戻ってきた時は、DISGORGEやDEEDS OF FLESH、DECREPIT BIRTH、DEPRECATEDなどのブルータルデスメタルに傾倒していきました。当時、UNIQUE LEADER系のエクストリームなバンドがリアルタイムで数多く出てきていたのを覚えています。
ただ、今でこそブルータルデスメタルシーンは認知されていますが、当時の日本ではシーンとしてまだまだ認知が浅く、大学内でも話の合う人がいなかったんですよ。
そんな時、日本のデスメタルのローカルシーンの方々と知り合う機会があり、それらのバンドシーンをローディーとしてサポートしたり、自分自身もバンド活動に邁進していました。
その後、学生時代のバイトの延長線上でIT関係の会社に新卒で入社したんですが、入社してから「これは自分には合わないな……」と思って辞めて、その後、とある学術系の出版社が求人募集を行っていたので、そこに応募し、かれこれ11年程その会社で働く事になりました。その出版社自体はお硬い学術書のラインナップで定評があったのですが、路線や系統にかなりズレが出てきたので、別の出版レーベルとして2015年にパブリブを設立しました。そして、『デスメタルアフリカ』に始まる「世界過激音楽」シリーズや世界史関連の書籍をリリース、現在に至ります。
-社名の「パブリブ」とは、どういう意味を含んでいるのでしょうか?
ハマザキ : 「Publishing Liberty」、日本語訳は「出版の自由」ですね。
言葉の大元としては、古典的自由主義をベースに、
何でもありで、制約も無く、自由でユニークな書籍をリリースしたいと思い、この名前をつけました。あと「出版人生」や「公的出版」という意味も込められています。
パブリブという名称自体は造語なんです。
また、当初は~社的な名前にしたくなかったんですよ。今の時代、海外で日本の書籍の翻訳ヴァージョンがリリースされる事もよくある話で。自分が作った本をグローバル展開する際に、日本風の社名より、英語をベースにした社名で無ければ、と思った点も大きいです。
-近年ですと、ワッキー(RNR TOURS 代表 脇田涼平氏)執筆の『デスコアガイドブック』『ブルータルデスメタルガイドブック』、ポーランド在住の岡田早由さん執筆の『東欧ブラックメタルガイドブック』などを読んで、パブリブの事を知られた方も多いかと思います。出版される書籍の基準などはございますでしょうか?
ハマザキ : そこに関しては、既存のメディアや出版社がやっている事はやりたくないと考えています。誰も手をつけていなかった箇所をどんどん開拓して行きたいですね。
自分自身がそこそこのDiggerだという風には思っているのですが、必ずしも全てのジャンルを見通せているかと言うと、そうではないですね。
ただ、どのジャンルでもそういったDiggerは必ずいる訳で、そんなDigger達を自分が更にDigる事が出来れば、と考えています。
既に人気の出ているライターをプッシュするよりは、これから化ける未経験のライターを発掘したいですね。
脇田さんに関しては、元々メロディック・パンク畑の出身ですが、ブルータルデスメタルの知識も相当半端なく持ってます。彼は江川敏弘さんに紹介してもらったんですが、元々自分は彼の事をメロディック・パンク畑一直線の人だと思い込んでいたんです。
ただ、書籍の話をする際に実際に会ってみた所、かなり年下なのに色々と見識が深く、しっかりした人物でした。そして、実際に『ブルータルデスメタルガイドブック』をお願いしたら、見事に仕上げてきたのも驚きました。彼の特筆すべき点は、「どのバンドにどのメンバーがいて、あのバンドのメンバーと繋がっていて~」的な人脈図の把握能力が物凄く高いことなんですよ。そして彼は元々メロコア出身というだけでなく、デスコアやメタルコア、ポストハードコアなどありとあらゆるジャンルに精通しており、その知識量は日本だけでなく世界でもトップクラスだと思うのです。ブラックメタルは苦手らしいですが(笑)。
岡田早由さんに関しては、彼女はポーランドに在住でして、現地の生の声なども取り入れた『東欧ブラックメタルガイドブック』を執筆しました。
どの音楽もそうですが、よく特定のバンドだけに詳しいファン、ある意味追っかけ的な存在がいると思います。ただ、それ以外のバンドやジャンルに関してはからっきしという人が多数なのが現状だと思うんですよ。その点、彼女は全世界のブラックメタル状況も把握しつつ、東欧のブラックメタルシーンにちゃんとコミットし、現地状況を的確に伝えた素晴らしい執筆者さんです。
この他にも、『デスメタルインドネシア』を執筆した小笠原さんも、全世界のデスメタルシーンを理解していた上で、インドネシアのデスメタルシーンを的確に執筆されていましたね。彼もワッキーや岡田さんと同じく総合的なバランスを持ち、その上でジャンルを掘り下げられる有望な執筆者さんです。また、TOPPA!!の読者層とはやや離れますが『ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブック』のShoさんはウォーブラックやベスチャルメタルと呼ばれるジャンルに詳しく、文章力が巧みで、バンドに対して的確なインタビューをするのに優れてました。
これからやれたら面白いなと考えている書籍は、サブジャンルに特化した音楽書籍ですね。単なる『デスメタルガイドブック』とか『デスメタル鉄板100選』とかだと、他のメディアが既にやっている事と変わりは無いと思うので、それこそまだやっていませんが、いずれはゴアグラインドとかNSBM、シンフォニックブラックメタルなど、まだ書籍上では未開拓であるエクストリームミュージックシーンに触れられれば、と考えています。
これらのジャンルは他のメディアが特化した一般書籍をリリースしておらず、される事もないと思うので、ある意味ブルーオーシャン状態かと考えています。その反面、これらを書ける人も中々思い浮かびませんが(笑)。
私の方針としては、本を出したことがなくて、サブジャンルを超極めていたり、ある地域のジャンルを超極めている、そういう書き手を常に探していて、自分でも相当見つけているけど、まだ知らない人とかもいるかもしれない。
だからもし「こういうのやってみたい、やりたい!」っていう人がいたら連絡ください。まあ大体どこに誰がいるか分かってますけどね。でも我こそはって人は連絡下さい。
-それでは、数々の多くの音楽書籍を出版されるパブリブですが、代表であるハマザキさん音楽的ルーツを掘り下げて教えて下さい。
Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.