合同会社パブリブ代表 ハマザキカク インタビュー

合同会社パブリブ代表 ハマザキカク
HP : http://publibjp.com/
Twitter : https://twitter.com/hamazakikaku

 

近年、音楽・サブカルチャー・世界史クラスタにおいて、話題の出版社が存在する。それが今回取り上げる合同会社パブリブだ。

特に、音楽方面においては、『デスメタルアフリカ』に始まり、『デスメタルインドネシア』『ブルータルデスメタルガイドブック』『デスコアガイドブック』『東欧ブラックメタルガイドブック』『ヒップホップ東欧』など、数多くのサブジャンル・地域に特化した名書籍がリリースされている。

今回TOPPA!!編集部は、これらの書籍をリリースするパブリブ代表ハマザキカク氏に対し、彼の生い立ちから出版業界に入るきっかけ、リリースする書籍の基準等、話を聞いた。

取材・文 / 宮久保 仁貴  編集 / 松江 佑太郎


 

-ハマザキさんの生い立ちから、現在に至るまでの経歴を教えて下さい。

 

ハマザキ : 生まれたのは日本ですが、物心がつく前に、親の転勤で海外を転々としていました。
それこそ、幼稚園の頃から大学時代まで、フィリピンやチュニジア、イギリス、フランス、モロッコ等々……世界の色んなところにいました。

音楽を聴き始めたきっかけはですね……、小学生後半~中学校初頭にチュニジアのアメリカンスクールで学生生活を過ごしていたんですよ。そこにいる学生達が聴いている音楽は勿論洋楽で、当時はMC HAMMERを中心にHIP HOPが大流行していました。自分もその流れに乗りまして、初めて買ったCDはMC HAMMERとVANILLA ICEでした。
それと同時に、1992~1993年辺りにMTVでSEPULTURAやNINE INCH NAILSなどの存在を知り、この手の音楽にドップリとハマる様になりました。そこから、高校はイギリスの日本人学校に通い、NAPALM DEATH、BRUTAL TRUTH、CANNIBAL CORPSEなどのグラインドコアやデスメタルをリアルタイムで聴いていました。EARACHEの全盛期です。

その後、大学進学で再び日本に戻ってきた時は、DISGORGEやDEEDS OF FLESH、DECREPIT BIRTH、DEPRECATEDなどのブルータルデスメタルに傾倒していきました。当時、UNIQUE LEADER系のエクストリームなバンドがリアルタイムで数多く出てきていたのを覚えています。
ただ、今でこそブルータルデスメタルシーンは認知されていますが、当時の日本ではシーンとしてまだまだ認知が浅く、大学内でも話の合う人がいなかったんですよ。
そんな時、日本のデスメタルのローカルシーンの方々と知り合う機会があり、それらのバンドシーンをローディーとしてサポートしたり、自分自身もバンド活動に邁進していました。

その後、学生時代のバイトの延長線上でIT関係の会社に新卒で入社したんですが、入社してから「これは自分には合わないな……」と思って辞めて、その後、とある学術系の出版社が求人募集を行っていたので、そこに応募し、かれこれ11年程その会社で働く事になりました。その出版社自体はお硬い学術書のラインナップで定評があったのですが、路線や系統にかなりズレが出てきたので、別の出版レーベルとして2015年にパブリブを設立しました。そして、『デスメタルアフリカ』に始まる「世界過激音楽」シリーズや世界史関連の書籍をリリース、現在に至ります。

 

-社名の「パブリブ」とは、どういう意味を含んでいるのでしょうか?

 

ハマザキ : 「Publishing Liberty」、日本語訳は「出版の自由」ですね。
言葉の大元としては、古典的自由主義をベースに、
何でもありで、制約も無く、自由でユニークな書籍をリリースしたいと思い、この名前をつけました。あと「出版人生」や「公的出版」という意味も込められています。
パブリブという名称自体は造語なんです。

また、当初は~社的な名前にしたくなかったんですよ。今の時代、海外で日本の書籍の翻訳ヴァージョンがリリースされる事もよくある話で。自分が作った本をグローバル展開する際に、日本風の社名より、英語をベースにした社名で無ければ、と思った点も大きいです。

 

-近年ですと、ワッキー(RNR TOURS 代表 脇田涼平氏)執筆の『デスコアガイドブック』『ブルータルデスメタルガイドブック』、ポーランド在住の岡田早由さん執筆の『東欧ブラックメタルガイドブック』などを読んで、パブリブの事を知られた方も多いかと思います。出版される書籍の基準などはございますでしょうか?

 

ハマザキ : そこに関しては、既存のメディアや出版社がやっている事はやりたくないと考えています。誰も手をつけていなかった箇所をどんどん開拓して行きたいですね。
自分自身がそこそこのDiggerだという風には思っているのですが、必ずしも全てのジャンルを見通せているかと言うと、そうではないですね。
ただ、どのジャンルでもそういったDiggerは必ずいる訳で、そんなDigger達を自分が更にDigる事が出来れば、と考えています。
既に人気の出ているライターをプッシュするよりは、これから化ける未経験のライターを発掘したいですね。

脇田さんに関しては、元々メロディック・パンク畑の出身ですが、ブルータルデスメタルの知識も相当半端なく持ってます。彼は江川敏弘さんに紹介してもらったんですが、元々自分は彼の事をメロディック・パンク畑一直線の人だと思い込んでいたんです。
ただ、書籍の話をする際に実際に会ってみた所、かなり年下なのに色々と見識が深く、しっかりした人物でした。そして、実際に『ブルータルデスメタルガイドブック』をお願いしたら、見事に仕上げてきたのも驚きました。彼の特筆すべき点は、「どのバンドにどのメンバーがいて、あのバンドのメンバーと繋がっていて~」的な人脈図の把握能力が物凄く高いことなんですよ。そして彼は元々メロコア出身というだけでなく、デスコアやメタルコア、ポストハードコアなどありとあらゆるジャンルに精通しており、その知識量は日本だけでなく世界でもトップクラスだと思うのです。ブラックメタルは苦手らしいですが(笑)。

岡田早由さんに関しては、彼女はポーランドに在住でして、現地の生の声なども取り入れた『東欧ブラックメタルガイドブック』を執筆しました。
どの音楽もそうですが、よく特定のバンドだけに詳しいファン、ある意味追っかけ的な存在がいると思います。ただ、それ以外のバンドやジャンルに関してはからっきしという人が多数なのが現状だと思うんですよ。その点、彼女は全世界のブラックメタル状況も把握しつつ、東欧のブラックメタルシーンにちゃんとコミットし、現地状況を的確に伝えた素晴らしい執筆者さんです。

この他にも、『デスメタルインドネシア』を執筆した小笠原さんも、全世界のデスメタルシーンを理解していた上で、インドネシアのデスメタルシーンを的確に執筆されていましたね。彼もワッキーや岡田さんと同じく総合的なバランスを持ち、その上でジャンルを掘り下げられる有望な執筆者さんです。また、TOPPA!!の読者層とはやや離れますが『ウォー・ベスチャル・ブラックメタル・ガイドブック』のShoさんはウォーブラックやベスチャルメタルと呼ばれるジャンルに詳しく、文章力が巧みで、バンドに対して的確なインタビューをするのに優れてました。

 

これからやれたら面白いなと考えている書籍は、サブジャンルに特化した音楽書籍ですね。単なる『デスメタルガイドブック』とか『デスメタル鉄板100選』とかだと、他のメディアが既にやっている事と変わりは無いと思うので、それこそまだやっていませんが、いずれはゴアグラインドとかNSBM、シンフォニックブラックメタルなど、まだ書籍上では未開拓であるエクストリームミュージックシーンに触れられれば、と考えています。
これらのジャンルは他のメディアが特化した一般書籍をリリースしておらず、される事もないと思うので、ある意味ブルーオーシャン状態かと考えています。その反面、これらを書ける人も中々思い浮かびませんが(笑)。

私の方針としては、本を出したことがなくて、サブジャンルを超極めていたり、ある地域のジャンルを超極めている、そういう書き手を常に探していて、自分でも相当見つけているけど、まだ知らない人とかもいるかもしれない。
だからもし「こういうのやってみたい、やりたい!」っていう人がいたら連絡ください。まあ大体どこに誰がいるか分かってますけどね。でも我こそはって人は連絡下さい。

 

-それでは、数々の多くの音楽書籍を出版されるパブリブですが、代表であるハマザキさん音楽的ルーツを掘り下げて教えて下さい。

 

ハマザキ : 最初に聴いた音楽はヒップホップで、だけどインダストリアルとかメロコアっぽいのも聴いたし……。だけどやっぱり16歳ぐらいの時にはもうSUFFOCATIONに突入しちゃっていたし、IMMOLATION、INCANTATIONも聴いていて……かなり早い段階でブルータルデスメタルが直撃しちゃっていたんですよ。98か99年?くらいに、アメリカのブルータルデスメタルがピークに達したのを覚えています。それこそ、DYING FETUSとかINTERNAL BLEEDINGとか。90年台前半フロリダのタンパでデスメタルが流行し、90年台中期ニューヨークや中西部、00年台前後にテキサスとカリフォルニアを中心に、ブルータルデスメタルが流行っていましたね。特にカリフォルニアのDISGORGEとDEEDS OF FLESHは印象深かったです。ブラストビートが鳴りっぱなしで、変拍子でハイパーテクニカルで……!
2000年前後ぐらいにこういうこと言ってる人って日本ではあまり居なかったですね。グルービーデスメタルとかモダン、ニュースクールデスメタルみたいな言われ方をしていて。海外ではあんまりニュースクールとは言わなくて……今で言うテクニカルデスメタルとも違うんですよね、UNIQUE LEADER系としか言いようがなかったんですけど、DISGORGE、DEEDS OF FLESH 、DECREPIT BIRTHの3バンドが特に有名でしたし、自分もよく聴いていました。

その後、2005年ぐらいからインドネシアのブルータルデスメタルが急成長しちゃって、インドネシアのブルータルデスメタルが今では世界最強というのはほぼ世界共通認識になっていると思います。ただ日本ではまだそれが十分理解されていないのですが。たぶん現時点で、1番BPM速くて、リズムのテンポチェンジが複雑で、数値で測ると、現在でも最強レベルなのがインドネシアなんですよ。私個人としてもすごく好きですね。

あとはイタリアのPUTRIDITY辺りのテクニカルブルータルデスメタルや、トルコのDECAYING PURITYとかギリシャのBIRTH OF DEPRAVITYとか地中海諸国の速くてかつ変拍子やリズムチェンジを多用しているバンドも良いですね。ああいう形態が真にブルータリティを追究してると思うので。

ロシアとかで流行っているスラミングデスメタルとかはもっとのろくて、BPMも速くなくて、グルーヴ感重視じゃないですか。聴く分には結構好きではあるんですが、ブルータリティを追究するっていう意味ではちょっと脇道逸れちゃったって感じはありますね。常にデスメタルってブルータリティを追究する競争だと思ってるんで。

この界隈では年長者ですが、今でも若い方と同じレベルで最先端のものをウォッチングはしているつもりです。少なくとも日々そう努力してます。今はそういったデスメタルと並行して、再びドイツやロシア、ハンガリー等「非英語圏ヒップホップ」をかなり聴いています。むしろ時間的にはこちらの方が遥かに多い。子供の頃にMC HAMMERだとかを聴いてたってことがあるのかも原因かもしれません。あとテクノとかも結構好きで、20代の頃はブレイクコアもかなり聴いていました。それからペイガンフォークメタルも相当漁ってますね。こちらは興味本位なのですが、メロディが中毒になる事が多いです。

話を戻して、そんな2018年現在は、インドネシアとイタリアのシーンがブルータルデスメタルの最先端を進んでいると思います。

 

-先ほどお話の中で出てきましたが、インドネシアのデスメタルの中で最強だと思うバンドはどのバンドですか?

 

ハマザキ : GEROGOTってバンドと、INTRACRANIAL PARASITEっていうバンド。後者は国内は最近過去Amputated Veinからリリースされていました。特に最近ではBEJADとCRUELESTが凄まじかったです。

INTRACRANIAL PARASITE Bandcamp : https://intracranialparasite.bandcamp.com/

あとはカリフォルニアのINIQUITOUS DEEDSっていうバンドもオススメです。この辺のバンドが人間の肉体能力的に限界ギリギリを挑戦していて、新領域を開拓しつつあると思います。

でも弦楽器のテクニックっていう点でいうとDjentとかの方がすごかったりするでしょ。速度はブルデスとかの方が速いけど、ポリリズムだとかああいうのでいうとDjentの方がいろいろ試行錯誤してて、プロダクションもいいし、あの辺の評価は難しいですよね。

ただデスメタルは意識的に作曲しないと4拍子ばかりになってしまうのですよ。4/4の繰り返しだと、グラインドというかゴアグラインドというか、そうするとドラマーの速度に依存しちゃうから、作曲者が5・7・11拍子とかに決めちゃったほうが良いと思います。変拍子でポリリズムで……ただ、それを突き詰めるとMESHUGGAHみたいになっていく。そうするとどうしてもBPM150ぐらいになってしまう。エッシャーのだまし絵の音楽版みたいな感じですね。まあANIMALS AS LEADERSとか、ああいうのとかは若干良くも悪くもわざとらしさを感じますが、ブルータリティは感じさせません。目的が別の所になっていっているというか。だからBPM250以上とかでちゃんと変拍子やってるバンドが1番好きですね。でも変拍子だけで奇を衒う人たちはあんまり好きじゃないです(笑)。やっぱりブルータリティが一番自分にとっては大事です。

あとは、デスメタル界隈の人達はDTMを持ち込むの大嫌いじゃないですか。でもテクノロジーの力を使って、プロダクションをバキバキした方が絶対に音は良くなるんですよ。でもなんかローファイ趣味の人、ブラックメタルとかデスメタルにけっこういるけど、私はDTMすごく好きだから、ブレイクコアとかも好きだし。自分のバンドでもそういうところを目指してたから。
そういう点ではそういうことを理解してるデスコアの人たちに親近感湧くんですよ。

 

-過去ハマザキさんがやられていたバンドは何というバンドなのでしょうか?

 

ハマザキ : NOISMっていうバンドです。それを言いにくいのが、もっと有名な同名のダンスチームがいて、出版業界でもそっちの方に勘違いされることが多くなっちゃったから、あんまりネットとかでも言ってないんだけど、別にTOPPA!!だったらいいや。Apple Musicとかでも聴けるし。

NOISMはRelapse Recordsのコンピに何回か参加後、2008年にCRUCIAL BLASTっていう前衛的なレーベルがアメリカのメリーランドにあって、そこから『±』という作品をリリースしました。その時点でリスナーとしてヒップホップとかの比重が高くなったから、デスメタルもあんまり聴かなくなって、CD出したらいいやっていう気持ちになって、燃え尽きました。

その後、ブランクがありつつも、デスメタルが懐かしくなってきて、現在のようにデスメタル関連の書籍をリリースしていますね。リスナーとしての欲が湧いてきて、今でも若い子に負けないぐらい新譜ウォッチングしてるとは思いますけど、やっぱりRNR TOURSの脇田さんとか、Justice For Reasonのやんちさんとか本当にアンテナ張ってる人には敵わないなって感じですね。出版側で、良き理解者として、若い人たちをサポートする側に回らなきゃいけなくなったのかなと思います。

 

-それでは、最近触れたアーティスト・作品の中で、感銘を受けた方・物を教えて下さい。

 

ハマザキ : ブルータルデスメタルとしてはバスクのMDMAですね。

 

 

でも全ジャンルでいいんですよね。それで感銘を受けたっていうのは、Les Neiges Noires De Laponieっていうフラッシュコア。フランスのボルドーかな。

Neiges Noires De Laponie Bandcamp : https://lesneigesnoiresdelaponie.bandcamp.com/

 

フラッシュコアっていうのはブレイクコアの一派で、Xanopticonっていうミュージシャンがいて、それが2000年代中期ぐらいにフラッシュコアっていう一つの派閥を形成したんです。ブレイクコアってハードコアテクノの中でも一番激しいジャンルなんですけど、それのさらに激しい版が発生していて、もはや予測不可能な、変拍子どころじゃないバキバキやってるやつ。それはもうDTM、プラグインの知識とかを総動員して、プラグインを3重、4重にかけあわせて実験的なグリッチ音出したりとかして、ノイズに近いんだけども、偶発的な雑音みたいな、かなり緻密な計算をしていて、ブレイクコア特有のアーメンブレイクっていうリズムを加速させたりとかで、知能犯、愉快犯的な高度なことをやってる、テクノのブルータル版だと思っているのですよ、個人的には。デスメタルで1番ブルータルなのはブルータルデスメタルなんですけど、テクノの1番ブルータル版がフラッシュコアだと思ってるんですよ。

あの辺の土地勘はあまりないんだけども、今定点観測していて、その点ではLes Neiges Noires De Laponieには超感銘を受けて、こういうジャンルがもっと発展して欲しいなって思っています。でも人口がすごく少なすぎて、デスメタルもそうだけどこっちの方が全然人口少なくて、フラッシュコアっていうのがどんどん流行って欲しいんだけど、難易度が高すぎますね。突然変異的な天才児が出てくるのを見守るしかないのが現状かなと思います。音楽的にはすごく感銘を受けましたね。

 

また、電子音楽関連の話をすると、DTMがすごく好きなんですよ。波形編集とかいろいろ駆使すると、自分が演奏できないことでも音になるっていうか、アイディアをそのまま結晶化出来る所が好きでして。テクノとかの人たちの、頭で考えたアイディアを、パソコンを駆使して実験的な音楽をやるっていうのがスピリットとして共感する部分がありますね。速いっていうのもあるんですけど、脳みそで作り上げた複雑なものを実現するという意味で、フラッシュコアとか特に共感しますね。

 

自分はデスメタルとかはそこそこマニアかもしれませんが、少し畑が違うジャンルに行くとやっぱり知らないことだらけで、自分はマニアだってあんまり思わないようにしています。マニアだと思った時点で探究心が減ると思うから。ヒップホップも好きだって豪語してるけども、自分が結局好きなのってドイツ・ロシア・フランス・ハンガリー・ポーランド・モンゴル・中国・韓国ぐらいで、よく考えたらヒップホップって全地域にあるじゃないですか。
それで、日本でヒップホップ好きって言ってる人に関しても、日本だけ、アメリカだけみたいな人が多いので、「もっと視野広げていった方が良いんじゃないの?」とはよく思うんですが、自分も国だと10くらいしか知らないですし。逆に言えば、スペイン語系・ヒスパニック系はあまりよく知らないし、アラブとかアフリカのヒップホップもまだ未開拓で、知らないジャンルがあまりに多すぎて、なるべくいろんな音楽聴こうと思ってるけど、もうどこにどういう音楽が潜んでるからわからないから。それは常にアンテナ張って、あんまりリピート再生しないように気を付けています。その間は他の音楽聴けないから。そういう感じですね。

 

-これからの出版業界の在り方について、思う所を教えて下さい。

 

ハマザキ : 出版不況ひどいって言われてますけど、実際本当にどんどんひどくなってますね。底を打ったとかって言われておきながら、さらに底が深くなっています。一般市場に向けて、普通の人たちに発信するような情報っていうのはもう出版だけじゃ成り立たなくて、WEBで成り立つようになっていますからね。
ビジネス書とかダイエット本とか実用書の世界では、大手がやって大量に刷って半分売れればいいやっていうのが前提なんです。有名人を著者に起用して、実態はゴーストライターが書き、編集者が大幅に手直しをする。そして返品を前提に大量に委託して、そういうサイクルでやってる出版業界もあるんだけど、私の場合はそういうのは好きじゃないし、向いてないし、そういうテーマに興味なくて。
もう二極化しちゃってて、超一般マス向けのものはそれはそれで残るのかもしれないけど、その一方で、本当に究極のマニア、わかる人にしかわからないようなテーマは結構生き残るんじゃないかなって思っています。

後者は何万部とかは売れないし、最初からそういうことはあまり期待してないんだけど、これだけ流通も、例えばAmazonとかのネットで、買いたきゃすぐ買えるじゃないですか。
そうすると、大量に刷ってばらまいて委託してお店で見つけてもらうっていうよりかは、Twitterで何かのジャンルとかクラスタに向けば、そこにいる人たちはみんな気が付くから、そういう人たちに向けた本で生き残りを考えていて。
音楽だけじゃなくてどのジャンルでも、ニッチトップの人たち、マニアックなところだけを突っつくような紙媒体っていうのが生き残りの道なんじゃないかなと思っていますね。

私がやってるのは全部マニアック路線で、1万部とかは全然いかないけれども、大コケもしなくて、そのサブジャンルの第一人者が著者で、その著者が出しますって言ったらそこのクラスタほぼ全員にすぐに届く。そういう路線をやっていく以外に未来はないんじゃないかなと思っています。

大手や中堅でも大所帯でやると、やっぱり営業部がいて、経理部、総務部がいて、受付や倉庫係がいて、どんな本でも7~8000部とか刷らなきゃいけないのかもしれない。そうすると、音楽書籍をやるにしても、どうしても売れ筋を載せる必要が出てくる。結局、中学生と中後年向けの有名なバンドを入れないと裾野が開かれないから、既存の有名なバンド、アーティストを入れないといけない。だから中堅や大手の出版社でも極端にマニアックな音楽本を出したい編集者はいるかもしれないけど、ある意味事実上不可能なんですよ。マニアックなだけ、サブジャンルだけっていうのは。あとは中学生・高校生の初心者から、おじさん・中高年までリーチしなきゃいけないってことで、なかなかやりたくても出来ないのかもしれないけども。私のやっているやり方だと、かなりマニアックなものだけで、今も昔もついてこれるかぐらいの強気でやっています。ただ、それを逆に求めていたユーザーさんが事実大勢いらっしゃった訳で、引き続きそういうものをやっていきたいっていう感じですね。

みんなが既に知ってるような大御所バンドの情報を載せたところで何にもならないし、それよりも30年後の大御所バンドを今見つけないといけなくて。そういったバンド達も最初はローカルな地元のバンドだったけど、それでもやっぱり先見性があって、そのエネルギーを先に見つけた、ライヴを見てたお客さんや、デモテープを聴いたキュレーターみたいな人たちがいた訳で。そういう風に早い段階で認めてくれる人達が全くいなかったら、そのバンドの人たちもモチベーションを維持できなくて、レーベルとかに所属する前に解散したかもしれないし。
嗅覚がすごい鋭い人、誰よりも早く、世界最速レベルで発掘する人がやっぱり世の中には必要で、そしてそんなDiggerやウォッチャーを更に俯瞰的に見守っている少し上の世代の私のようなメディアの人がサポートする事で、音楽を新陳代謝させて、新世代を発掘し、サポートしていく。そういう循環で出来ているのだと思います。

 

あと、今までみんなにあんまり意識されてなかったんですけど、WEBだと結構消えるんですよ。ホームページっていうのは閉鎖されたりするので。
これは自分のけっこう苦い経験があるんですよ。昔Myspaceが出てくる前はmp3.comだったんですよ。確かAvril Lavigneとかもmp3.comでプロモーションして話題になってから、世間的にもブレークした記憶があります。2000年ぐらいからWEBでの音楽活動が盛んになって、みんなWEBで自分の音楽とか発表するようになったんだけど、mp3.comの運営体制が変わってからそれらの情報が全部跡形もなくなっちゃったんですよ。その時のことを記憶してる人もいないんですよ。活字になってないから、物理的な証拠がないんです。
私のバンドもmp3.com内で結構頑張ってて、再生回数とかが人気のバロメーターだったんですけど、それも消えちゃったんですよ。

今は「WEBでいいじゃん」という風潮がありますが、私の中ではmp3.comは青春の全てを費やしたホームページで、そこで目指してたバロメーター、再生回数といった情報が、自分の預かり知らぬところで完全に消滅したっていうトラウマみたいなものがあります。その事件を経てきているからMyspaceの勢いが無くなった時も、「またそういうことが起きたんだな」と冷めた目で見ていました。そこから、今はFacebookとかYouTube、Bandcampなどがプラットフォームになりましたが、これらもいつまで残るかわからないし、SoundCloudとかも、そこでしか発表してない人とか結構いるけど、音源化されてないと永遠に闇に葬り去られちゃいますよね。その点ではCDとかレコードとかってまだ残るっていうか保存性すごいし、それにこだわるミュージシャンが多いのもすごくわかるんですけど。

 

その点で、音楽とかも、歴史だと紙で書いたりすることを前提にやってるから残るけども、特に若者音楽とかは時代の最先端行ってるようなふりをしてるから紙とかとの相性すごく悪いんだけども、その結果歴史に全く留められてないですよね。フリーペーパーとかだと、国会図書館の納本義務もないし、Amazonとかで中古で出回るってこともないから、結局情報として残らないし……。そんな中、こういったデスメタルの中のサブジャンルを体系化した一般書籍は、私がやるまではほとんど出版されていなかった。本はアーカイブっていう意味では保存性はすごく優れているから、各ジャンルのサブジャンルをディスクガイドっていう形でアーカイブ化していくってことには意義を感じてますね。

デスコアとかも、今はかなり最先端で、歴史的な蓄積も全然なさそうに見えていますが、それだってもう20年ぐらいのストックはあるんです。脇田さんに『デスコアガイドブック』を担当してもらった時に、「ブルータルデスメタルほどはないでしょ。」と、私は甘く見ていたんですが、結果的にブルータルデスメタル並みに音源はあって、でもブルータルデスメタルよりもさらに歴史性を感じさせないジャンルだから、「こんなのやあんなのもあったのか!」みたく、私も知らないバンドばっかりで驚きました。デスコアって他のジャンルよりマテリアルっぽくない雰囲気のジャンルじゃないですか。逆に言えば、オンラインバンドっぽいじゃないですか、デジタルバンド的な。それでさえ20年のストックがあったっていうのは驚きで、本にしてなかったら当事者しか覚えてなかったんじゃないかぐらいの切なさがありましたね。

 

-今後の出版予定の書籍について教えて下さい。

 

ハマザキ : 私は基本的に超秘密主義で、書いてる著者にも、バンドにインタビューする必要がある時以外には公に言わないでねって約束してるので、その自分がここでネタとか言うとかなりマズイから、具体的なテーマや書名はまだ言えないです。ただ、現在やっている傾向性としては、今すでに水面下で30企画やってるんですよ。それで、1年に12冊は絶対に出すつもりなんですよ、つまり毎月1冊は必ず出す。それの2年分ぐらいのストックはあって、2年としたら24冊でしょ、だけど本当は1年に15冊ぐらい出したいから、だから30冊ぐらい現在進行形で進めてて。

その内の3分の1ぐらい、つまり10冊は『世界過激音楽』っていうラインナップ。それも地域系とサブジャンル系の2つに分かれていて、今10くらいやってますね。ただ平均すると3ヶ月に1回くらいのペースですね。

もう3分の1がサブカル路線で、私は出版業界ではむしろそちらの方で知られているというか。音楽でも知られてるのかもしれないけど『いんちきおもちゃ大図鑑』とか、『中国遊園地大図鑑』とか『エロ語呂世界史年号』とか、そういうサブカル路線。あっちの方がやっぱり世間的にも話題にもなるし、メディアにも取り上げられて、売れるのは売れるし大コケもしないから、あっちで手堅く稼いで、自分の愛しているジャンルの音楽とかをやるって感じです。

残り3分の1の10冊が、若手研究者による世界史、地理、地域研究の本。これが知的好奇心っていう意味ではかなり充実感を得ています。こういうカラフルでサブカル風で、でも中身はかなり真面目で高度な専門知識を要求される本をDTPと編集をいっぺんに一人で出来る人って、実は人文書業界でもなかなかいないのですよ。これはこれで重要なパブリブのラインナップです。最近出たので言うと、『ピエ・ノワール列伝』、その前は『タタールスタンファンブック』、『第二帝国』辺りですね。本当は社会的にはもっとこちらのラインナップを充実させないといけないのかな(笑)
今後の書籍の具体的なテーマはちょっとまだ公にできないんですけど、毎月1冊出すつもりで、告知案内を毎月やってるので、私の動向をSNSなりでチェックして下さい。このいずれかの書籍情報が流れて来ますので。

 

-それでは最後に、出版業界を目指す方へメッセージをどうぞ。

 

ハマザキ : 目指してる人いるかもしれないけど、出版業界は本当に壊滅的な状況で、新規採用とか求人募集もないし、募集してる出版社もないし。もし私が今の時代に生まれてきても、就職活動を通して出版社に入りたいっていう発想すらもうあんまり無いかもしれないですね……(笑)。

その中でも出版に行きたいと思う人がいるんだとしたら、はっきり言ってミュージシャンになるのと同じレベルでの大変さですね。なかなか食っていくのは大変だけれども、そこにはまだ夢が残されていて、成功すれば界隈では人気者になれるけど、それが永久に続くかどうかはまったくわからない。一発屋になるかもしれないし、水商売っぽいところもあるし、人間関係も煩わされるし、知識や技術もかなりレベルの高いことを要求される。所得っていう意味では、あんまり割に合わない。知的能力とか仕事の技術とかでいうと他の仕事に比べてもそんなに負けてるとは思わないんですけど、苦労が多い下積みのミュージシャンとかと職種としては近いのかなと思います。

だけど、面白さや充実感とかやりがい、世の中に対しての使命感とか楽しさっていう意味でいうと、編集っていうのは少なくとも私自身はすごく満足しています。色々な職種を経験したことがあるわけじゃないから単純比較はできないけども、もしまた来世で自分の人生をもう一回生きることになったとしたら編集者になると思うし、もし100億円とかが手に入って、何やってもいいよって言われたら、たぶん今と同じように同じ本を編集してると思います。

 

そういう点では、お金に還元できない……。例えばミュージシャンとかでも、お金を大量に手に入れたら辞める人もいるかもしれないけど、それよりも本当に音楽が好きな人は、お金を手に入れても地下室とかに機材を買って、また同じことをやると思うんですよ。クリエイティビティとか、創作してる、切磋琢磨してる、自分の技術を磨いてるっていう時が人間一番充実していると思うんですね。前の作品よりもっと良い作品を作るっていう意味で、それが一番楽しい時だと思うんですよ。その点、編集者というのはお金とか儲からないし安定感も無いけれども、作品を作るっていう点ではものすごい充実感を得ていて、自分自身バンドやってたっていうところもあって、結構同じものを感じるんですよね。

つまり、ある特定の期間、すごくそのジャンルに詳しい第一人者とプロジェクトバンドを期間限定でやってアルバムを出したり制作をする、それと似てるなって思いますね。超一流のドラマーとかベーシストとセッションバンド組んでプロジェクトアルバムの制作作業を行い、それを私がアレンジして、ミックスして、マスタリングして、カバー作って、トータルDTPデザインプロデュースして、それで世の中に投入するっていうプロジェクトバンドをやるイメージですね。そんな形で、編集として次から次へと本を出してるから、そういうことが楽しいと思えるような人は出版業界に入ってもいいと思います。でもそういうのをそこまで楽しく思わないとか、一読者でいいという人は普通の堅気の仕事に就いた方がいいと思います。

でも面白い人は増えてほしいと思いますね。私みたいなスタイルの人は中々いないですけど、もし似たスタイルの人の本が出れば、是非読みたいと思っていますので。