岡田早由 : 私はYouTubeに動画投稿をしているんですよ。基本的に旅動画やなんでもない日常を撮った動画ばかりをアップしているチャンネルなんですけど、ブラックメタルバンドのCDジャケットを弁当で再現する動画も作ったりしていて(笑)。その動画がきっかけで、濱崎さんがわたしのYouTubeチャンネルをチェックしてくださるようになったんです。さらに、2017年の1月頃から小規模ですがディストロを運営し始めて、それもしっかりチェックしてくださっていました。そして、同年4月に、「東欧のブラックメタル括りで執筆できないか」と、メールでご連絡いただきました。
Dekalog11 : http://dekalog11.com/
私は元々、濱崎さんのことは存じ上げていて、「何だか色々と面白いことをしている方だなぁ。いつかお話ししてみたい!」と思っていたので、最初にご連絡いただいた時は本当に驚きましたし、とても嬉しかったです!もちろんすぐに、「ぜひ書かせてください!」と返信をしました。
-このご縁……インターネット社会の良い一面ですね! ちなみに、執筆活動の上で辛かった事を教えて下さい。
岡田早由 : 私の場合、レビューよりも、コラムや国の歴史について書くのが大変でした。外国語でしか得られない情報もあって、間違えた翻訳をしていないか心配だったり、あまり適当なことは書けないなというプレッシャーがあったり……執筆しながら大学時代の卒業論文を思い出しましたよ(笑)。
あと、これは執筆中の辛かったこととはちょっと違うのですが、ついに本が完成して出版される数日前に、突然不安に陥ってしまったんです。執筆終了直後は「やっと書き終わった~!」という達成感と解放感でいっぱいだったのですが、しばらくすると「わたしなんかが本を出していいのか?非難されまくったらどうしよう。嫌なこといっぱい言われたらどうしよう……(汗)。」といやにネガティブになってしまって(笑)。その心情を友人に打ち明けたら、「え!そんなこと心配してるの!?YouTubeとかネットで散々顔出ししていろんなことしてるのに!?そんな人が今更何を心配するっての~!え、めっちゃ意外なんだけど!」と笑い飛ばしてくれて(笑)。友人のこの言葉のおかげで、「確かにそうだよな。結局はなるようにしかならないもんな!」と物凄く気が軽くなりました!
-それでは、本が出た後、一番嬉しかった事を教えて下さい。
岡田早由 : 嬉しかったことは沢山あります!沢山ありすぎて……一番は決められません(笑)!
まず私は小学生くらいからずっと、「いつか自分の本を出してみたい!」と思っていたんです。どんなジャンルの本でも良いから、自分で書いた本を出版したいと思っていて。なので、自分の本が紙媒体になってAmazonなどのネット通販だけでなく、全国の書店やCDショップに並ぶというだけで、信じられないくらい嬉しかったです。まさかのまさか、夢が叶った!と感動でいっぱいでした。
その後、TOKYO FMさんのラジオ番組や、ライブストリーミングチャンネルのDOMMUNEさんに出演させていただいたり、出版記念パーティーにたくさんの方々に来ていただいたりと、本当にありがたく、貴重な体験をさせていただきました。
また、家族がとても喜んでくれたのも嬉しかったです。離れたところに住む母方の祖父母にも献本しに行きましたよ(笑)。インターネットも使ったことがなく、携帯電話も持っていないおじいちゃんおばあちゃんは、わたしの名前が本に印刷されている!と喜んでくれました(笑)。
-本の中でこうしておけば良かったなと後悔している事はありますか?
岡田早由 : とにかくバンド数が多かったので、すべてのバンドを掲載しきれず、特にデモ作品しか出していないようなバンドは、例外を除いては基本的に載せなかったんですよね。でも、後になってこれは載せとけばよかったなと思うバンドも出てきて、それはちょっと後悔しています。
あと、インタビューの質問がどれも似たり寄ったりになってしまったことも後悔というか、反省しています。インタビューってされる側も難しいものですけど、する側もなかなか難しいんだなと実感しましたね。
-『東欧ブラックメタルガイドブック』は日本語で書いてあり、ポーランド人など東欧の人は読めないはずですが、本についてどういうリアクションがありましたか?
岡田早由 : 読めないにも関わらず、「欲しい!」「買いたい!」という反響が多くて驚きました。出版後すぐにポーランドに来たのですが、その際に何冊も持ってきたにも関わらず、すべて無くなってしまいました。一番驚いたのは、チェコのSILVA NIGRAというブラックメタルバンドのメンバーが全員購入してくれたことです。「サポートありがとう!とても感謝しているよ」とのことでしたが、「それはこっちのセリフだよ~!」と、物凄く感激しました。
そして、ポーランドのGRAVELANDやハンガリーのTHY CATAFALQUE、SEAR BLISSなどもSNSで本を紹介してくれ、チェコのメタル系ウェブマガジンも本の紹介や私のインタビューを載せてくれました。とにかく「まさか日本人がわざわざ東欧のメタルシーンに関する本を出すなんて!」と意外だったようです。
-それでは、岡田様の身の回りの音楽シーンの動向を教えて下さい。
岡田早由 : ブラックメタルは、まだマイナーなジャンルかもしれませんが、それでも世界中に多くのファンが存在しています。ディストロを始めるようになって気付きましたが、日本にも一定数のファンがいますし、これから少しずつでもどんどん支持層は広がっていくと思います。
私が今いるポーランドでは、ブラックメタルに限らず、メタル音楽自体、結構人気があります。バンド数も多いですし、月に何度もポーランド国内のどこかでライブがあるくらいなんです。バンドにもよりますが、観客もそれなりに集まります。ライブに来る人たちも、もちろん出演バンド目当てで来る人もいれば、よくバンドのことは知らないけどとりあえず来てみた、と気軽にふらっと観に来る人もいたりして、みんな自由に音楽を楽しんでいる感じがしますね。
-ちなみに、東欧四カ国のブラックメタルにそれぞれお国柄や違い、特徴はありますか?
岡田早由 : ポーランドがこの四カ国の中では圧倒的にバンド数が多いのですが、他の国に比べるとNS系、ペイガン系のバンドが多いです。音楽関係なしに、近年の欧州全体の移民問題などで、これまで以上に愛国心が芽生えてナショナリストが増えている印象を受けます。そのような問題もあってNS系、ペイガン系のバンドはこの国で一定数の支持を得ているように感じます。
チェコは、ROOTやMASTER’S HAMMERという80年代から活動するオカルトな雰囲気の一風変わった大御所メタルバンドがいるのですが、最近のバンドもちょっと変わったバンドが多く見受けられます。たとえば、下水道という存在に憧れ過ぎて、勝手に下水道の中に地底世界があると設定して歌うStíny Plamenůや、インドのカルチャーに影響され、チェコのバンドであるにも関わらず、ヒンドゥー語を使って独特な曲を制作するCULT OF FIREなど、個性的なバンドが存在します。
スロヴァキアは国の人口自体が少ないせいもあってか、バンド数も他の三カ国に比べるとかなり少なく、正直なところ大御所やこれと言って目立ったバンドいません。しかし、数は少ないながらも、デプレッシブ系やペイガン系など、意外と良質な楽曲を制作しているバンドもいますね。
ハンガリーはトロンボーンなどの管楽器をブラックメタルに取り入れたSEAR BLISSや、電子音楽とブラックメタルを融合させたTHY CATAFALUQUEなど、アヴァンギャルドなメジャーバンドがいる一方で、アンダーグラウンドなメタルシーンの繋がりも強いです。ハンガリーにはInner Awakening Circleという地下で活動するブラックメタルバンドが集まったサークルが存在しています。小規模なサークルですが、所属バンドが参加するライブなども定期的に開催しているようです。
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