shichigoro-shingo インタビュー

shichigoro-shingo インタビュー

shichigoro-shingo(読み方:シチゴロ シンゴ)
HP: http://shichigoro.com
Twitter: https://twitter.com/shichigoro756
Instagram: https://www.instagram.com/shichigoro756

自身の作風を”インダストリアル・パンク”と称すイラストレーター、shichigoro-shingo氏。彼の退廃的な近未来で機械的要素を含んだ作品は、厳かで畏怖を感じさせる。それと共に、機械等の無機物がテーマでありながら、瑞々しく生命感溢れるタッチに驚嘆させられる。近年では東京モード学園のTVCM(2015年)やAA=のアートワーク等、彼の作品を見かけたTOPPA!!読者も多いのでは無いだろうか。

今回、shichigoro-shingo氏に対し、彼のバイオグラフィーや作風、クリエイターとしての観念等を聞くべく、メールインタビューを実施した。

文 / shichigoro-shingo   編集 / 宮久保仁貴   写真 / shichigoro-CHR


 

-TOPPA!!初登場という事で、改めてshichigoro-shingo様の自己紹介をお願い致します。

 

shichigoro-shingo : はじめまして。shichigoro-shingoといいます。この度は貴重な機会をいただきありがとうございます。2010年頃から機械と有機物が融合したようなイラストをデジタルで描き始め、最近は以前から興味があったアナログでの造形物を作ったりもしています。

多くの作家さんがそうであるように、自分もまた物心がついた頃からマンガや玩具が好きでした。絵を描いたりするのも好きでしたが、プラモのパッケージイラストや玩具のチラシ、ゲームの説明書イラスト等を眺めてはすごくワクワクしていました。絵を描く事を意識したのは美大受験の予備校の頃な気がします。美大の油画科に合格した後は周りの学生の技術や芸術に対しての姿勢、意識の高さに挫折し、徐々に美術の道から外れ、卒業後の20代のほとんどは絵や物作りと関係ない仕事をして過ごしていました。

飲食業の仕事をしていた時に、いくつかの店舗の看板デザイン、イベントやライブのフライヤー、内装やメニューの制作なども手伝わせて頂いく中で、自分の中でボンヤリとまた物作りをしたい気持ちが沸き上がってきました。30代になる頃にオーナーや周りの友人達と話し合いなどをして、ちゃんと絵を描いてみることにしました。現在も仕事にできるのかどうか自問自答しながら手探りの状態ですが……!

 

– shichigoro-shingo様の画風には近未来的・インダストリアルの要素を感じますが、絵のルーツを教えて頂けますでしょうか。

 

shichigoro-shingo : 多くの影響を受けた作品や作家さんがいますが、小学生の頃に見た『AKIRA』が一番のルーツにあると思います。サイバーパンクのジャンル作品になると思いますが、鉄雄が機械に浸食され融合している時の無機物と有機物の狭間で揺らいでいるような一体感が強烈に印象に残っています。またH.R.ギーガーの作品にもダークな無機物と有機物の融合の美しさにすごく影響を受けています。他にもアートやイラスト、映画、玩具、アニメ、マンガ、ゲーム、小説などの多くの作品に現在も影響を受け続けています。あまり深く考えたことは無いのですが、自分が機械を描く時は構造的な要素よりも生命体の一部のように見えるように意識をしている気がします。

音楽にはインダストリアルというジャンルがありますが、作品ジャンルに対しての“インダストリアルパンク”の言葉自体は自分の造語です。以前より自分の作品はサイバーパンク、スチームパンク、バイオメックアートなどのジャンルに厳密には属していないような気がしてました。しかし、それらの様々なSFジャンルの作品が複合的に自分の根底にあり、その影響から作品が生まれています。

 

近年はAA=やアイドルグループAphrodite等音楽系のアートワークも度々手がけていらっしゃいますね。音楽系アートワークを手がけられたきっかけを教えて下さい。

 

shichigoro-shingo :きっかけらしい事は特別にはありませんでしたが、一番最初は2011年に海外レーベルの”2999年”の世界をテーマに作られた音楽とイラストをパッケージするという企画のオファーを受けたことでした。

 

 

その後も海外のアーティストやレーベルから連絡があり、いくつかデジタル配信用に絵を使用していただきました。初めてパッケージ版のCDとしてジャケットになったのはカナダのレーベルInterchill Recordsから発売されたアンビエント・チルアウト系コンピレーションアルバム『WAYPOINT』でした。

 

 

国内では2015年のモード学園TVCMの仕事がきっかけで、AA=(AAEQUAL)の上田剛士さんとお会いすることができ、CM曲のシングルカット「→MIRAI→(ポストミライ)」のデジタル配信用ジャケットイラストを描かせていただきました。その後も連続して「M SPECIS」、「FREE THE MONSTER」のシングルカットのジャケットイラスト、「Such a beautiful plastic world!!!」MV イラスト、「#5」のアルバムアートワーク、「AA= TOUR #5」ライブDVDジャケットイラスト、George Orwell小説「動物農場 AA= OIO SPECIAL EDITION」の装画と挿絵まで描かせていただきました。AA=はどの曲もすごくカッコよくて一発でファンになり、AA=のアートワークの一部に携わらせていただいたことは自分にとって誇りであり本当に感謝しています。

 

 

 

上記に付随して、shichigoro-shingo様の音楽的ルーツを教えて下さい。

 

shichigoro-shingo : 上田剛士さんがTHE MAD CAPSULE MARKETSで活動している時にMADのことはもちろん知っていたのですが、自分はミクスチャーロックやインダストリアル系の音楽をあまり通ってはきませんでした。でも玩具が好きだったので中野ブロードウェイのお店のカウンター上にMADのチョロQやKUBRICKが同梱された限定CDやWHITE CRUSHERやBLACK CYBONEのメディコムトイのフィギアが飾られているのを見て、凄いカッコ良いなぁとずっと眺めていたのを憶えてます。現在はAA=やMADなどのミクスチャーロックやインダストリアルの音楽も後追いで聴いています。10代の頃によく聴いていたのはTHE BLUE HEARTSや大槻ケンヂ氏関連のバンド、その他もパンクやロックっぽい音楽です。

自分にとって音楽は絵を描き始めた時は制作する作品と関係性が希薄だったのですが、AA=のアートワークに携わらせていただいてからすごく制作に重要な要素になったような気がします。個展のインダストリアルパンクのタイトルや自分の絵のジャンル、概念も上田剛士さんに出会って無かったら出てこなかった言葉です。なのでルーツと言えるのは、ごく最近ですがAA=になる気がします。

元々あまり知らない音楽やジャンルに挑戦するのは苦手だったのですが、今はなるべくどんな音楽ジャンルでも一旦聴いてみようと思っています。

 

-shichigoro-shingo様が一番初めにお仕事として手がけられた作品はどのクライアント様の物だったのでしょうか。

 

shichigoro-shingo :自分が絵を描きだして最初の印象的な仕事はオーストラリアのファッションブランドBLACK MILK CLOTHINGのアートワークです。その後もレギンスやTシャツ、水着やキャットスーツなど多数のアートワークコラボをさせていただいています。日本ではあまり耳にしないブランド名なので自分も知りませんでしたが、オーストラリアや欧米などでは有名な人気のブランドのようです。最初の頃は提出する絵の解像度やサイズが大きいのに対して自分のPCのスペックが低く、ちゃんとしたペイントソフトも持っていなかったのでPhotoshopのElementsで画像を分割しながら制作したり四苦八苦していました。

ARCH ENEMYのAlissa White-Gluz (Vo)が自分のアートワークのレギンスをライブで改造して履いてくれたり、Whoopi GoldbergがABCニュースで履いてくれたりしているのを見た時は嬉しかったです。

 

 

直近では個展「INDUSTRIAL PUNK」を開催されましたね。こちらの反響は如何でしたか?

 

 

shichigoro-shingo :自分は2015年にロシアで個展をしたことがあったのですが、現場には行けずにスカイプを通して現場をなんとなく感じる程度だったので、きちんと現場に行ける国内で個展をするのは今回が初めてでした。ヴァニラ画廊さんには最高の場所とセッティングをしていただいて、個展のタイトルの基になったAA=上田剛士さんにはコメントやお花、ライブ会場でフライヤーの配布をご協力をしていただきました。会期中にはSRBGENkさんに居酒屋で長時間お酒と駄話に付き合っていただいたり、他にも多くの皆様のご協力のおかげで予想もしていなかった沢山の方々がご来廊してくださいました。自分にとって感謝の気持ちでいっぱいの楽しいとても充実した個展になりました。

 

話は変わりますが、最近触れた中で感銘を受けたアーティストを教えて下さい。

 

shichigoro-shingo :直近ではやはりペインターのSRBGENkさんです。彼の描く女性はいつもスゴく可愛くて美しいですが、新作を見る度に妖艶さや魅惑さが増していくようで驚異的です。特に今回のGENkさんの個展で「宵の芳香」という作品を見た時はさらに一線を画した絶対的な存在感を感じて衝撃的でした。自分は以前よりGENkさんの絵を見て知っていてたのですが、花蟲さんが主催したヴァニラ画廊の企画展を通じて直接お会いできて、それ以降は飲みにいく度いつも自分の無駄話しに長々と付き合ってくれる人格者です。勝手に心の友と思ってます。

SRBGENk インタビュー

GENkさんを通じて知り合えたのが筆字アーティストの雪駄さんです。雪駄さんの描く筆字の圧倒的な存在感や力強さ、緊張感や独創性、フォルムのカッコ良さは今まで他に自分は見たことがありません。また彼の知識の深さや技術の高さ、吸収力や発信力、作品に対する姿勢が凄くて尊敬する作家さんです。ちょっとした企画的な事にも全力でものすごい熱量とクオリティーの作品を制作してきて驚かされます。

最近でもないのですが、自分がデジタルを始めた時からずっと尊敬してて刺激を受け続けている方がデジタルアーティストのKazuhiko Nakamuraさんです。完成された独自の世界観と完璧なクオリティーの作品を時には半年もの時間をかけて作り続けてらっしゃいます。勝手にデジタルアートの心の師匠と思ってます。

この他、数年前のスチームパンクのイベントで知り合えた方が造形作家の松岡ミチヒロさんです。やはり唯一無二の世界観とクオリティーの造形作家さんで、自分の造形に関する知識は松岡さんから教えていただいてます。勝手に立体造形の心の師匠と思ってます。

また松岡さんと同時期くらいに知り合えた方がジャンクアーティストのJUNK LAWさんで、GENkさんのインタビューにもありましたが鉄を操る造形家さんです。以前にJUNK LAWさんの主催する二人展に誘ってもらい、コラボ展を犬山でやらせていただいたのですが、通常の環境ではまず見れないハードで衝撃的な実物大の鉄作品の数々に圧倒されました。

他にも造形作家のKamaty Moonさん、画家のNaoto Hattoriさん、土田圭介さん、イラストレータの非さん、屑さん、冥麿さん……あげていったらキリがない程のアーティストに日々感銘と影響を受けています。

海外ではAnton Semenovさんのダークで独特な雰囲気の世界にどこか可愛く感じるキャラクターのバランス感といつまでも眺めていられるすごい技術力に特に憧れています。

他にもBrian Despainさん、peter gricさん、Pierre Matterさん、juha arvid helminenさん……等々その他多数です。

 

今まで活動されてきた中で、一番印象深かった出来事を教えて下さい。

 

shichigoro-shingo : モード学園のTVCMや広告のイラスト素材に使用していただけたことです。自分のような無名の作家にオファーいただけるとは夢にも思いませんでした。TVCMや電車の車内広告に自分のイラストがあって、不特定多数の方に見てもらえ、多くの反応をもらえるようなお仕事をいただけたことは本当に幸運だったと思います。CMは2015年度版だったのですが、いまだに当時の事を覚えていてCMが好きでしたというお言葉をいただけるととても嬉しいです。

またそれがきっかけでその後のAA=とのお仕事に繋がっていったので、いつどんな事が起きそれが今後にどう繋がっていくかは全く予想がつかないと感じています。

 

 

近年の活動を振り返ると、如何でしたか?そして今後の目標をお教え下さい。

 

shichigoro-shingo :まだまだ未熟者ですが、ここ最近になって以前より少しづつ色々なお話しを頂けるようになってきたように感じてます。商業画集を国内外で出版していただいたり画廊で個展をさせていただいたことも目標で夢の一つだったので、多くの皆様のご協力のおかげで最高の形で実現させることができました。今後何か特別に大きな抱負はないのですが、造形や絵についても色々とまだまだやりたいことが沢山あるので、作品を作り続けながら少しずつでも前進していければ良いなと思います。

 

 

近年の画家/イラストレーターシーンについて思う所を語って下さい。

 

shichigoro-shingo :近年は大量に情報を仕入れる事が出来ます。また色々と新しくて便利なソフトや画材に日頃から触れやすい環境からか、若い方でもすごい技術とクオリティーの作品ばかりでとても驚かされ自分も刺激を受けます。一方でイラストなどでは流行っている人気の絵柄を本流にした少し似た雰囲気のあるものを多く目にしているような気がしますが、技術やクオリティーや流行などからさらに一歩外れた独自な世界観を持った作品をもっと沢山目に出来たら嬉しいです。

またそういった独自感やクセを持った作家さんと作品をどんどんピックアップしてくれるような媒体や企業が増えてくれたら嬉しいです。

 

それでは、今後の予定をお教え下さい。

 

shichigoro-shingo :10/6 ハイライフプラザいたばしで開催される艶惨9に参加します。お時間が合いましたら是非是非。

 

艶惨9 : http://en-zan.com/

 

それでは最後に、これから筆をとろうと考えている方へのメッセージをどうぞ。

 

shichigoro-shingo :今は低価格でもデジタルペイントの良いソフトなどがありますので、誰でも簡単に時間の空いた時の趣味でもどんどん描いて沢山発信していって欲しいです。作品の上手いや下手は経験と意識の差ぐらいで、意識次第で技術がなくても経験を克服できる面白い作品が作れると思います。自分もまだまだ全然未熟なのでこれからも沢山描き続け、いつの日か唯一無二の独自な世界の作品を作れる事を目標に頑張りたいと思います。

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