ヘヴィーミュージックに特化したプレイリスト『DiverCore』(読み方 : ダイバーコア)の第4弾、【DiverCore vol.4】をSpotifyとApple Musicにて公開した。
このプレイリストは国内外問わず“今聴くべきヘヴィーミュージック”をプレイリストというフォーマットを使ってキュレーションするもので、今月は厳選された約50曲をセレクト。
文・編集 / ynott(https://twitter.com/ynott1986)
ボーダレスに更新・拡張されていく新しい形のヘヴィネス
【DiverCore vol.3】のコラムにて、これまでのポップネスを封印しインダストリアル&ゴシックに振り切ったThe 1975の最新曲「People」が現行のヘヴィーミュージックシーンのリバイバルムーブメントと共振しながらも、シーンのボーダーを超えて新しい形のヘヴィネスとしてヘヴィーミュージック自体を拡張・更新したと解説した。
元来ポップバンドであるThe 1975がヘヴィーミュージックシーンの外側でヘヴィネスの拡張と更新を行ったように、2019年の下半期に入りそのムーブメントがシーンもジャンルも超えて更に広く波及しているように思える。
マサチューセッツ出身のエモラッパーnothing, nowhere.は新作EP『BLOODLUST』でblink-182のドラマーTravis Barkerとコラボレーション、Emo Rapのフィールやソングライティングはそのままに、Travisの人力ビートによってビルドアップされ、よりバンドサウンドに接近した1枚になっている。
思い返せば2018年にエモラッパーlil aaronのクリスマスEP『WORST CHRISTMAS EVER』をプロデュースした経験のあるTravis、おそらくこの頃からイチ早くEmo Rapとヘヴィーミュージックの親和性の高さと2019年以降のシーンの動向を予見していたのだろう。そういう意味でこのタイミングでのnothing, nowhere.とのコラボレーションは必然の事だった言えるのではないだろうか。実際に彼が所属するblink-182がリリースした最新曲「I Really Wish I Hated You」はまさにEmo Rap由来のソングライティングとビートプロダクションの影響が色濃く反映されてた1曲になっている。
こうしたシーンの壁を飛び越えたボーダレスなヘヴィネスの拡張・更新は更に加速して、至る所で顕著に見られるようになってきている。
ロンドンのSSW・YUNGBLUDはEmo Rap以降のボーカルアプローチとソングライティングを武器としながらも、コーラスパートでのメロディーとボーカルの爆発力はまさしくオルタナロックバンドのボーカリストのそれだ。まさにZ世代とも言うべきエモラッパーとロックボーカルのハイブリッド的な存在。
またNYのラッパー・JPEGMAFIAはニューアルバム『All My Heroes Are Cornballs』にてインダストリアルでヘヴィなトラックにシャウトに接近したフロウを使いこなし、現行のNu-Metalリバイバルのムーブメントとも共振。そして新鋭エモラッパーのJasiahはnothing, nowhere同様にblink-182のドラマーTravisとコラボレーションを実現、彼もまたインダストリアルでヘヴィなトラックにシャウトに近いハードなフロウを使いこなすエモラッパーの一人だ。
ロサンゼルスの新鋭プロデューサー/トラックメイカー・Dwillyがリリースした新曲も現行のヘヴィーミュージックのモードにかなり接近した1曲。EDMにパンクとエモコアの文脈をマッシュアップしたようなDwillyの新曲「ASSASSIN」は、日本の新鋭DJ/プロデューサーBUNNYと彼の楽曲にも客演で参加しているex-Hopes Die LastのBeckoの新ユニットxo sad等が提示する“EDM meets EMO”とも言えるダンサブルでハードでエモーショナルなサウンドと共振している。
こうして元々親和性の高かったラップミュージックとダンスミュージックを起点として、これまではシーンの内側のみで起こっていた化学反応が、ラッパーやトラックメイカー等ヘヴィーミュージックシーンの外側にいるアクト達のアプローチによってシーンの外側で起こり始めていて、それがシーンのボーダーを超えたボーダレスなヘヴィネスの地殻変動を引き起こしていると言えるのではないだろうか。
ピコリーモ回帰する日本のヘヴィーミュージック
一方国内のヘヴィーミュージックシーンを見ると、coldrainやCrystal Lake等ワールドワイドに活躍するヘヴィーアクトとは別文脈で、デジタルサウンドでビルドアップされたようなラジカルでマッシュアップ感のあるサウンドが未だに根強い人気を持っているのがよく分かる。例えば“ピコリーモ”の第一人者、新体制で再始動したFear, and Loathing in Las Vegasの最新曲「The Stronger, The Further You’ll Be」はこれまでの彼らの楽曲同様、高質量のデジタルサウンドでビルドアップされたダンサブルなナンバーだ。
Las Vegasが体現した“ピコリーモ”文脈を色濃く受け継ぐガールズユニットPassCodeの新曲「Future’s near by」もまたこれまでの彼女等の楽曲同様ラジカルでマッシヴな1曲。また新体制になると共にユニット名を改めたガールズユニットKAQRIYOTERRORの最新曲「lilithpride」はダブステ、Trap等の要素を咀嚼しアイドルポップの可能性を更に押し広げた1曲。
更に福岡の新鋭ヘヴィーミュージックアクト・Paleduskの最新曲「9 SMILES」は、Issues以降ど真ん中のデジタルサウンドでマッシュアップされたヘヴィかつキャッチーな1曲に仕上がっている。思い返してみれば今年1月にリリースされたFABLED NUMBERのアルバム『Millionea』もアップリフティングなデジタルロックにヘヴィーミュージックの文脈を取り入れたまさに“ピコリーモ以降”とも言うべきカラフルでラジカルな1枚だった。
海外で大流行したエレクトロコアを“ピコリーモ”“チャラリーモ”として輸入し独自のサウンドに変換、派手でノレて踊れて暴れられるこのサウンドは、フェスブームの盛隆と共に市民権を得た日本独自のヘヴィーミュージックカルチャーだろう。海外でNu-Metalリバイバルが起きているのと同様に、日本でもピコリーモリバイバルが起こるかどうかは現時点ではまだまだ判断する材料こそ無いがが、昨今のKawaii Future Bassのムーブメントやその文脈を継承・咀嚼してNeko Hackerが提示したKawaii Future Rockなど、ある意味でピコリーモ文脈と親和性が高いサウンドがここ日本でも人気を博している。実際にPaleduskの「9 SMILE」で使用されている声ネタ等はまさしくFuture Bass文脈のそれだろう。
“ピコリーモ”とFuture Bassを始めとしたインターネットミュージック文脈、今でこそほぼ分断されたシーンではあるが、何かをキッカケにこの文脈が繋がり新たなムーブメントになる可能性は十二分にあると言えるだろう。2020年以降のヘヴィーミュージックシーンの新たな希望として、実現する事を密かに願うばかりである。
Comments are closed, but trackbacks and pingbacks are open.